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広島地方裁判所 昭和42年(行ク)4号 決定 1967年10月18日

申請人 庚午タクシー有限会社

被申請人 広島陸運局長

訴訟代理人 山田二郎 外四名

主文

被申請人が昭和四二年九月一二日付をもつて申請人に対してなした一般乗用旅客自動車運送事業免許の取消処分の執行は右処分取消しの本案判決が確定するまでこれを停止する。

理由

申請人会社は主文同旨の決定を求め、申請理由は次のとおりである。

一、申請人会社は昭和三八年三月一日広陸自免第二三五号をもつて、一般乗用旅客自動車運送事業の免許を受け、同日よりタクシー業を営む有限会社であるが、被申請人は昭和四二年九月一二日付で申請人会社に道路運送法第三六条第一項の違反事実ありとして、申請人会社に対し、右免許を取消す旨の決定をなし、同決定は同日申請人会社に通知された。

二、しかしながら、申請人会社が他人の名義を利用させることによつて、名義料を貰つたこともなく、名義を利用させたこともないのであるから、右処分は違法であり、取消されるべきものである。

三、かりに、申請人会社に同条に該当する違反事実があつたにしても、右自動車運送業者の指導官庁である被申請人が、他に違反事実とてなく、適正な運営を続け、運送に関する秩序を守り、社会的信用を得て、公共の福祉の増進に寄与している申請人会社に対し、予め道路運送法第三三条による改善命令を発することなく、直ちに右免許の取消しという重罰処分をもつてのぞんだことは法の定める適正手続に違反し、違法であるのみならず、陸運局の従前の処分に比し、不当に重く、著しく公平に反するものであつて、裁量権の範囲を逸脱した違法の処分である。

四、申請人会社は昭和四二年九月二〇日広島地方裁判所へ、右行政処分の取消しの訴を提起した。本件免許取消処分の執行により申請人会社は営業閉鎖を余儀なくされ、会社債権者に対する債務の支払不能、従業員二〇名及びその家族の生活の基礎を奪うこととなり、申請人が本案で勝訴しても、右の損害は回復困難であり、執行停止をすべき緊急の必要があるため、申請の趣旨記載の裁判を求める。

当裁判所の判断は次のとおりである。

申請人会社が一般乗用旅客自動車の免許を受け、タクシー業を営む有限会社であるところ、被申請人は昭和四二年九月一二日付で申請人会社に道路運送法第三六条第一項の違反事実ありとして、申請人会社に対し、右免許を取消す旨の決定をなし、同決定は同日申請人会社に通知され、申請人会社は右決定が違法であるとして、広島地方裁判所へ右処分の取消訴訟を提起したことは本件及び本案記録に徴して明らかである。

申請人会社が自動車運転者等一八名を使用し、タクシー九台により乗客運送事業のみを営んでいるものであることが疎明できることからすると、本件免許取消処分は、その性質上申請人会社の存立を奪うもので、右処分の執行により申請人のうける損害は回復困難であり、右執行を停止すべき緊急の必要があるということができる。

被申請人は、本件は本案につき理由がなく、また本件処分の執行を停止すれば、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある。」と主張するので判断する。

本件記録によれば、申請人会社に道路運送法第三六条第一項の名義貸の違反事実の存することが疎明される。ところで、同法第四三条によれば、右違反事実に対する処分の選択は、行政庁の判断に委ねてある。したがつて、右処分は行政庁の裁量処分であり、行政事件訴訟法第三〇条により、右処分は裁量権の範囲をこえた場合に違法となるのであるが、本件処分が、申請人会社の死活に関する重大な処分である点からすると、処分の選択が裁量権を踰越するか否かは、違反行為の態様、公益上その取締りの必要性、違反者の私権の保護等の見地から、本案において審理を尽したうえで決せられるべきことであり、現段階ではにわかにその帰すうを判定しがたいから、本件は行政事件訴訟法第二五条第三項後段の本案につき理由がないとみえるときに該るとはいいがたい。

つぎに、本件処分の執行停止により、公共の福祉に重大な影響を及ぼすかどうかであるが、もとより、事案の性質上、執行停止により、公共の福祉に影響なしとはいいがたいけれども、本件処分が申請人会社の道路運送上の安全、管理の面における瑕疵を直接に問うものではなく、道路運送法第三六条第一項の名義貸の責を問うものであつてみれば、右違反事実のある申請人会社の営業の継続により公共の福祉に及ぼす影響が重大であるとはいいがたく、他に被申請人の右主張を肯定すべき疎明はない。

以上の理由により本件申請は理由ありと認めて主文のとおり決定する。

(裁判官 長谷川茂治 雑賀飛龍 篠森真之)

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